この記事は遥か昔、高橋名人で有名なハドソンとNECホームエレクトロニクスが共同開発した家庭用ハード:PCエンジンのSRPGソフト:ソードマスター(1993年発売・開発:ライトスタッフ)の記事です。
なお、完全な妄想回ですので、本当に生暖かい視線でお読みください…
一応、登場人物で漏れがないか確認用に未登場キャラ一覧を残す。
バルガス討伐直後:復讐を終えたエルフと戦士の国とドワーフの恩義
バルガス討伐戦、それはアクス達一行にとってその旅の最後であり、熾烈な戦いであった。
魔王討伐隊の唯一の魔法使いであり、魔物たちの襲撃により実の兄を無残に殺されたエルフの女魔術師:ミュートは「これが最後」と、その魔力と自信の生命をも復讐の炎に替え、並居る魔物たちを焼き払うのであった…
アクスにより魔王バルガスが討ち取られ、魔力を使い果たしたミュートはただその場に崩れ落ちる…
ミュート「ああ…兄さん。ミュートは兄さんやエルフの村の皆の仇を討つことができたでしょうか?」
そっと近づき、その肩を抱くエルフの戦士がいる。
同じ村の出身であり、今は亡き彼女の兄の友であった者だ。
ミュート「アヴァ・ファデラさん…」
不器用ながらも彼なりに語りかける。
アヴァ・ファデラ「…ああ、 仇はもう十分取った。取ったんだ…」
彼も思う事があったのか、彼のトレードマークであり友の形見でもある破れた帽子を深く被り顔を隠す。
アヴァ・ファデラ「ミュート、お前の魔法のおかげだ…だが、お前はこの戦いでどれだけの生命を魔力に替えてしまったんだ?」
ミュート「そんなの、私にとってどうでもいいことでしたから…」
力強くミュートの肩を掴み、彼は叫ぶ…
アヴァ・ファデラ「お前は! お前はこれからの事を考えるんだ…」
それは彼らしくない荒々しい物言いだった…
ミュート「でも、エルフの村はもう…」
そう、彼らの村はとうの前に消え去ってしまったのだ…
ドルストール「ああ、あんたらの村はたしか魔物に襲撃されて焼かれたそうだな。」
屈強なドワーフが近づいて来る。この戦いに身を投じた義侠心の強い歴戦の戦士だ。
ドルストール「行くとこがないならドワーフの村に招待するぞ!エルフとは犬猿の仲だが、あんたらにはダークエルフ討伐の借りがある。」
ガハハと豪快に笑うドワーフ、あの激戦の後でもその体力は尽きることがない。
ドルストール「まあ、なんだ。そこで今後を考えるがいい。」
二人はただ、想像もしていなかったその優しさに戸惑い、言葉も出なかった…
そこに黒い鎧を纏うも気品の溢れる女戦士とその従者が近づいて来る。
ミリア「すみません、お話が聞こえてきたので…」
戦士の国:アグニアン王の一人娘であり魔王討伐に同行した気高き女戦士:ミリアであった。
ミリア「そうだったのですか…今まで事情を知らずに接したことをお詫びします。」
崩れ落ちたミュートと目線を合わすため、しゃがみ込む王国の姫。
ミュートにとってはまず出会う事のない身分の人間である。
ミリア「ファミルトン、何か彼らに出来ることはないかしら?」
隣でたたずむ彼女の側近に助言を求める。
彼女の側近:ファミルトンは少し思案した上で、こう答える。
ファミルトン「そうですね… アグニアンの王国内にもエルフの集落があるとの噂を聞いた事があります。 斥候隊にお命じ下されば、おそらくは…」
ミリア「 わかったわ。 では、お父様にお願いしてみましょう!」
彼女の中で希望が見えたのか、ミリアはミュートの手を取り、まるで彼女を元気づける様に力強く語る。
ミリア「アグニアンは恩人を見捨てる事はしない!」
ファミルトン「(さすが姫様です…)」
誰にも気づかれないよう、細心の注意を払いながら我が主に思いを馳せる側近が居た…
一方その頃、別の場所では…
バルガス討伐直後:アグニアン砦の戦士達
バルガス討伐戦にて粘り強い戦いを見せた三人が居た。
一人は味方の窮地を察知すれば、我先にと自身の命も顧みず騎馬突撃による猛攻をかけて魔物を跳ね飛ばしていく満身創痍の騎士:ガストン。
もう一人は動けなくなった魔物に矢を射かけて止めを刺す弓兵:レリクス。
そして彼らを率いながら窮地の味方の前に立ちはだかり、「犠牲者を出さない」その一心にて奮起する戦士:ヴァルトン。
彼らは皆、魔物の襲撃により陥落したアグニアン砦の生き残りだった。
アクスにより魔王バルガスが討ち取られ、これにより三人がこの戦いに参加した理由:アグニアン砦の犠牲者たちへの弔い合戦が終了した。
奇しくも砦の生き残り3名は再び生き残ることが出来たのだった…
ヴァルトン「なんだ、結局この三人は死神から嫌われているみたいだな…」
皮肉にも似た苦笑いをするヴァルトン。
ガストン「自分はまだ戦えますっ!」
その横では辛くも致命傷は避けてはいるが、その無謀な戦い方で流血が絶えないのに、何故だか威勢の良い返事が出来る命知らずの騎士がいた。
ヴァルトン「お、おう…とりあえず、お前はイグラッド殿の元に向かうようにな…」
若干引き気味に労う上官。
レリクス「相変わらず、ガストンの旦那は恐れを知らないようだねぇw」
年の割には老けた容貌の貧相な弓兵が下品に笑う。
そんな三人の元へ、彼らが仕えるアグニアン王の直下の親衛隊隊長が労いにやってくる。
アレイサ「皆、ご苦労。貴殿らアグニアン砦の精鋭の活躍に、我らが主:サートス王もさぞご満足されている事だろう。」
アグニアン王国の兵でアレイサの名を知らない者はいない。
王に対する絶対の忠節、禁を侵す者には厳格なる処罰を与える冷徹な親衛隊の豪傑であり騎士長だ。
ヴァルトンとガストンが即座に敬礼するのに対し、レリクスは顔を伏せ、聞こえないように舌打ちする。
それに気づいたかは不明だが、アレイサは話を続ける。
アレイサ「そこで守備隊長殿、先日破壊されたアグニアン砦の修復については私からサートス王に修復を依頼する予定だが…」
少し間を置いてから彼は語る。
アレイサ「貴殿ら三人の功績も私から直々に報告し、相応の役職を賜るよう取り計らうつもりだが、いかがか?」
顔を見合わす砦の3人。悪い話ではないようだが…
レリクス「あー、俺はいいですや。」
面倒くさそうに髪を搔きむしりながらレリクスは返答する。
ヴァルトン「なんだと? オマエにとってもまたとない大出世の機会ではないか?」
それ程気前の良い話であり、気でも狂ったのかとヴァルトンはレリクスに訊ねる。
レリクス「ああ。俺はコレで兵隊生活オサラバさせてもらいますわぁ。」
さすがのアレイサもこの発言は効き捨てられない。彼の表情が冷徹なるアレイサのソレとなっていく。
レリクス「隊長さんよぉ、俺はまだ若いんだ… 生き死に掛けたこんな馬鹿げた生活が嫌なんだよ。」
レリクスはそんな周囲を気にせずに語る。
レリクス「俺はさぁ、美味い酒呑んで、引っ掛けた女を抱いて、とにかく気楽に楽しく生きてえんですよ。」
アレイサの覇気が殺気に変わり始める…
しかし、彼の言葉は止まらない…
レリクス「だからアイツらの仇取れたらもう、こんなのはもういいんですよ。」
アレイサの殺気が消えていくのをヴァルトンは感じた。
ヴァルトン「そうだな…」
アレイサは彼に背を向け、静かに語る。
アレイサ「相分かった。では、貴殿には相応の褒美を賜るよう取り計らう。」
レリクス「へへ、分かって頂きありがとうございやす!」
ニヤニヤ笑う貧相な弓兵。
そしてその場を去るアレイサは、小さく囁くのであった。
アレイサ「貴殿の想い、きっと彼等にも届くだろう…」
レリクス「へへ…」
レリクスは思う。
レリクス「アイツらの分まで好きなように生きて楽しんでやる。 んで、アッチに行ってからアイツらに自慢してやるんだ… 俺は楽しく生きてやったぞ、悔しいか?ってな…」
一方その頃、バルガス討伐を終えて帰途につく一行であったが…
バルガス討伐直後:その脅威に気づけた者
魔王バルガスがアクスにより討ち取られ、魔王討伐隊の目的は達成された。
種族や参加した経緯の違いはあったが、勇士達は目的を達成して喜ぶ者、激戦の疲労でその場に崩れる者、今後について語る者など様々であった。
そんな一行の中に神に仕え、その神への功徳を奇跡と代えて傷ついた者を癒す者がいる。
サータニア王国の若き女神官:セスカと、アグニアン王国の敬虔なる大司祭:ファーン・イグラッドであった。
彼らは戦いが終わった後も勇士達の傷を診て回っていた。
この戦いに参加した者で比較的軽症だった者から順に、この死闘が行われた戦場を後にしていく。
その場に最後まで留まり、皆が一応に無事であったことを彼が仕える神に報告し、感謝するイグラッドだった。
そこへ一通り勇士の傷を診終わったセスカが報告にやってくる。
セスカ「イグラッド様、とりあえず皆さんの傷は大丈夫そうです。」
イグラッド「ああ…セスカ殿か。私の方も粗方診ましたが、この戦いで死者が出ずに本当に良かった…」
セスカ「ええ、本当に。これまで薬草が足りるか不安で仕方がありませんでしたが、今こうしていられるのも神のご加護ですね!」
セスカは両手を組み合わせ神に感謝を述べる。
イグラッド「ところで、この場に残る者は私達だけですかな?」
セスカ「いえ、私達と一部の方・・・アクス殿やザブラ・ムバ殿くらいですね。」
イグラッド「ほう…」
この魔王討伐隊に参加するにあたり、イグラッドはいくつかの疑問を持っていた。
まずはザブラ・ムバと呼ばれる異形の術師。
彼からは少なからず魔界の影響を感じてはいた。
そして彼の使う術により呼び出される禍々しい魔界の脅威…
ミュートが使う召喚魔法に対して、明らかに異質で凶悪な呪法。
そして彼は、アグニアン領内で未だに解明不能であった神殿の中へと易々入り、古代の魔道兵器すらをも使いこなす知識を持つ。
彼については、見るからにそう感じ得たが、それよりも気がかりだったのは…
時に人間とは思えないほどの強力な力を放つ男、アクスの存在。
彼は傭兵であり、その卓越した剣技と並外れた腕力により魔物と対峙しているが…
更には、神の従者と名乗るホーリータウルス2名がアクスにかしづいてる。
かつてイグラッドが読んだ事のある古代の神学が書かれた書物に、古代の神に仕える番いのホーリータウルスの記述があったが、もしや?
イグラッドはアクスに関連する人物達に違和感を感じていたのであった。
しかし、そんな彼らも魔王による世界の混沌を防ぐ力となりえると考え、敢えて皆には話さずにいた。
イグラッド「では、アクス殿達も負傷されたのですかな?」
セスカ「いえ、そのようには見えませんでしたが…」
セスカ「あ、でも…アクス殿ったら面白くて。」
セスカ「魔王と対峙した恐怖が今頃やってきたらしく、足の震えが止まらないとか。」
クスリと笑うセスカ。
セスカ「気持ちが落ち着くまで、しばらくそのままにしてほしいとのことでしたよ。」
イグラッド「ふむ…」
セスカ「あんなに強いアクス殿なのに…やはりアクス殿も人の子なんですね。」
イグラッド「ああ、そうですなぁ…」
にこやかに笑うセスカを目に、苦笑いで返すイグラッド。
イグラッド「(本当にそうであれば良いのだが…)」
その最中、イグラッドはその場の違和感に気づく。
徐々にではあるが、何か凶悪な…魔界の瘴気ともいえる何かが…
イグラッド「セスカ殿!?」
セスカ「はい、イグラッド様。どうかなさいましたか?」
キョトンとした顔でイグラッドを見る女神官。
イグラッド「いや…」
イグラッド「(セスカ殿でも気づかないか…この禍々しい気配を…)」
イグラッドの見立てでは、この苦難の旅を経て若き神官:セスカの神力は大司祭の域まで到達している。
しかし、そんな彼女でもこの状況を把握できていない…
セスカ「イグラッド様、何やらお顔が青ざめてますよ?」
心配そうにイグラッドを眺めるセスカ。
イグラッド「いや…私もさすがに疲れましてな…急ぎ姫様達の元へ向かいましょう…」
イグラッドはアクス達の居る方角を確認し、セスカに見えぬよう、簡易の神への懇願の印を結ぶと彼らと真逆の方向にある出口へと向かう。
イグラッド「少々急ぎますぞ…」
セスカ「あの、イグラッド様?」
セスカも彼に合わせて出口へと急ぐ。
セスカ「(イグラッド様、お疲れなのにどうしたのでしょう?)」
出口に急ぎつつ、イグラッドは心でアクスを想い、彼が仕える神に祈る。
イグラッド「(アクス殿、申し訳ございません。)
イグラッド「(私、イグラッドはこの脅威に立ち向かう事は到底出来そうもない…)」
イグラッド「(神よ、この不甲斐ない私をお裁き頂き、代わりにどうか、彼らに神のご加護を…)」
こうして、その脅威に唯一気づいた人間:イグラッドはその場を逃げ出すのであった。
それ程までに、その脅威は「ただの人間である」彼にとって、どうすることも出来ない脅威であった。
かくして物語は、魔王バルガス復活の裏で蠢く黒幕とアクスとの死闘へと進む!
本編のその後:眠れる巨人
アクス達と別れ、悪霊使い:ザブラ・ムバはある目的のために一人で旅をする。
アクス達と共に旅をする以前、彼はダムドの洞窟から出ることを許されず、「アノ方」よりアクスを待つよう言いつけられていた。
こうして唯一人、人間界の日を浴びて歩くのは何時ぶりか?
目的地である街に到着し、その真の名も忘れられた神殿へと向かう。
神殿の本来の用途は既に忘れ去られ、その中に入る方法すら知る者はいない。
周囲に人がいないことを確認し、ムバは神殿の入口に杖をかざし、解呪の呪文を唱える。
永い間閉ざさた神殿の入口が開かれたのはコレで2度目だ。
ムバが神殿内に踏み入れると、そこには静謐の檻とでも言おうか、広大な空間が広がり、その中央には神殿の守護者を祭る祭壇がおかれていた。
ザブラ・ムバ「さてと…」
祭壇の奥には、まるで何かを封印するかのような巨大な方陣が描かれており、ムバはその中央に懐から取り出した魔法鉄で出来た人形を配置する。
そしてその場から離れ、古代言語による呪文を唱える。
すると、方陣の中央に置かれた魔法鉄の人形が巨大化し、本来の姿であるアイアンゴーレムと化した。
ザブラ・ムバ「お前さんも疲れたじゃろう。またここでしばらく眠るがよい…」
再びムバが呪文を唱えると、方陣より封印の魔力を帯びた光が生じ、アイアンゴーレムの周囲に張り巡らされる。
アイアンゴーレム「ウォーン…」
それはまるで、ムバに対して何かの返事をしたかのような…そんなアイアンゴーレムの鳴き声であった。
ザブラ・ムバ「やれやれ…お前さんはこのままずっと呼び起こされることなく、眠り続ける事が出来れば良いんじゃがのぉ…」
アイアンゴーレムの魔力の宿った目が次第に閉じ、その光を失っていく。
それを見届けながら、ムバはポツリとつぶやく。
ザブラ・ムバ「ワシは…いつになったらエリクスの下へ逝く事ができるのか…」
彼は遠く昔に生き別れた、最愛の女性の事を想い出す。
一時、その感傷に浸ってはいたが、彼にとってはもう遥か昔に過ぎた事である。
ザブラ・ムバ「まぁ、アノ方の手駒の一つであるワシにとって、それはまだ先なのかものぉ…」
用事を済ませたムバは神殿を後にするのであった。
ザブラ・ムバ「今の所、アノ方からの指示がない。という事は、ワシに自由にしとれという事と解釈してもよいかのぉ。」
こうして、ムバは自身が救った世界:数百年ぶりの人間界を旅することにした。
その後、どのような旅をしたかは不明である。
だが、彼の旅の最後に行き着いた先、それはシストアの村の跡地であったことは確かであった…
※アイアンゴーレムについて
かなりの巨体であり、そもそも起動した後から停止させるまでの間、その巨体のまま動き回っていたら町の住民の混乱っぷりが半端なく、アグニアン王国で大問題となっていると思われるw
サートス「なんだと、突如謎の鉄巨人が現れた!?」
そんなわけでムバの魔法もしくは、アイアンゴーレムに備わった機能で最小化して持ち運べるようになっていたのではないかと考える(多分?)
一方その頃、古代文明の神殿:クリストール神殿では…
本編のその後:クリストール神殿にて(※あくまで私の解釈です)
世界が終焉を迎えた際、地上に舞い降りて生物の始祖を生み育てる事を究極の使命とされる女神の使い:ホーリータウルス。
その番(つがい)がクリストール神殿に帰還した。
2頭のホーリータウルスは神殿の祭壇に上り、その四肢を曲げて床に座し、彼らの仕える女神に祈る。
マンデス「アクリエス様、アクリエス様。私、マンデスは無事にアクス様をお守りすることを成就する事ができました。」
ヴェルネ「アクリエス様、アクリエス様。私、ヴェルネは無事にアクス様をお守りすることを成就する事ができました。」
しばらくして、祭壇の上に少しづつエーテル体が集まり、かつてアクスに聖剣を授けた女性の霊体が現れた。
霊体「ご苦労様でした。あなた方の活躍は天界にも聞き及んでおりますよ。」
マンデス・ヴェルネ「ははっ。」
深く頭を下げる2頭。
霊体「女神より、来るべき世界の終焉の時まで休眠するよう託けがありました。その日が来るまで安らかにお眠りなさい。」
マンデス・ヴェルネ「かしこまりました。」
2頭は各々の休眠場所に戻ろうと立ち上がるが…
霊体「ところで、あなた方に訊ねます。…アクスは、どのような子に育っていましたか?」
霊体は静かに問う。
2頭はアクスの人となり、その雄姿、そして彼に宿った業による苦悩をありのままに伝える。
2頭が語り終えると、霊体の瞳から一筋の涙が流れて落ちた。
しかし、それは神殿の床に到達することなく消え失せる。
更に霊体は2頭に問う。
アクスと共にあった悪霊使いは健在かと…
2頭の話を聞き、霊体はかすかな微笑みを見せた。
霊体「そうでしたか…ありがとう。それでは、来るべき時までお眠りなさい。」
マンデス・ヴェルネ「かしこまりました。それでは女神様によろしくお伝えください、女神の代弁者様。」
こうして、2頭は本来の役目である来るべき日に備え、休眠に入るのであった。
一方その頃、傭兵達の宿場町:グレースの街の酒場では…
本編のその後:女傭兵の凱旋
グレースの宿場町にある酒場の戸が勢いよく開け放たれ、一人の客が入店した。
酒場の主人が目をやると、そこには長らく旅に出ていた常連の女傭兵が立っていた。
彼女の名はシャロヌ、この街の傭兵としては3本の指に入るベテランの傭兵だ。
主人「ああ、あんたか。ずいぶん久しぶりに顔を見るな!」
シャロヌ「相変わらずしけた酒場だね、マスター!」
そう言って、彼女のお気に入りの席であるカウンター席に腰かける。
主人「まあ、そう言いなさんな。いつものでいいか?」
シャロヌ「ああ、ココの酒が一番アタイにあってるからさ…」
主人は木製ジョッキに店自慢のエール酒を注ぎ、シャロヌに渡す。
シャロヌはそれを手に取ると、一気に喉に流し込む。
相変わらずの飲みっぷりに主人は懐かしさを感じるのであった。
主人「そういえば、お前さんが旅立ってからしばらくして、お前さんの嫌っていたアノ2人も旅立っていったが…」
何気ない会話のつもりで話しかけた主人だが、その言葉にシャロヌの態度が一変する…
シャロヌ「アイツらの話はするんじゃないっ!」
シャロヌはジョッキを渾身の力でカウンターに叩きつける。
その怒声と衝撃音に何事かと酒場にいた客全員がシャロヌに視線を向ける。
シャロヌ「いいかい、あんなクソ野郎達の話を金輪際アタイの前でするんじゃないよ!」
主人「あ、ああ…すまなかった…」
何がまずかったのか酒場の主人もわからなかったが、彼女の手にするジョッキだったモノを目にし、ただ謝るしかなかった。
それを聴き、ヨシ!と一人納得するシャロヌだが、酒場の雰囲気を台無しにしたことに気づく。
シャロヌ「ああ、すまないね。迷惑かけたついでにアタイから皆に一杯おごらせてもらうよ!」
その一言で酒場の客は歓声を上げる。指笛さえ鳴らす者もいた。
荒くれ者が来客するのは日常茶飯事、そんな酒場を営む主人として、これ以上店を荒らされないように客を扱うのも心得ており、
主人「じゃあ折角だ。依頼達成の祝いとしてお前さんには私から一杯奢るよ」
シャロヌ「マスター、あんたわかってるね!」
ジョッキだったモノをマスターに放り投げ、手を突き出して新しいエール酒を催促する。
シャロヌ「じゃあ、せっかくのアタイからの奢り酒だから、皆はアタイの話でも聴いてもらおうか!」
カウンターの椅子に片足を乗せ、来店客に自身がよく見えるよう身を乗り出す。
シャロヌ「いいかい、アタイの今回の仕事はなんと魔王討伐!この目で魔王を見てきてやったよ!」
こうしてシャロヌにとっては単独講演会、店の主人としては頭の痛い一夜が始まった…
話の要約としてはこうだ。
・魔王討伐の助っ人として、この街で一番凄腕の傭兵である「このアタイ」が選ばれたこと!
・凶悪な魔物をバッサバッサと斬り倒す「このアタイ」の強さ!
誇張され過ぎているような気もするが、シャロヌに意見しようものなら、あのジョッキの如くなり兼ねない気配…
酒場に居る一同は、わが身可愛さ故にその話を黙って聴くしかなかった…
話疲れてはエール酒を飲み干し、空のジョッキを無言で突き出し、主人に注ぎ足せと催促し続ける。
主人としては、今夜の元が取れるのかが心配でならない…
そんなシャロヌの話の中で、少しだけ彼女の本心に触れる話もあった…
シャロヌ「んで、今回の仕事の依頼人がアクスって言う老け顔のオッサンなんだけど、コレがまためっぽう強い男でね!」
シャロヌ「アタイとしては、あんな強い男に抱かれたいなぁ…と、しみじみ思ったわけよ!」
自分の語りにウンウンと頷く。
シャロヌ「でも、ソイツにはアルセアってイイ感じの関係の娘が居てね。この娘がまた顔は良いんだけど、世間知らずでお人好しの村娘みたいなもんで!」
大げさに思い悩むフリをするシャロヌ。
シャロヌ「アレなら大人の女の魅力? 女として格上のアタイだったら簡単に奪ってやれると思ったわけよ!」
シャロヌ「ところがあの娘、オークの一匹も殺せそうにない弱っちい身体なのにさ、自分の命を差し出してまでアクスを守ろうとすんのよ…」
そこで一息つく。
シャロヌ「そんなん見たら、アタイはあの娘には敵わないなぁ、とか思ったわけね!」
何故だか、さっきとは違ってにこやかに話しだす。
シャロヌ「だからアタイは思ったのさ。あんな感じで命張れるような、アタイよりも強い男を見つけ出すってね!」
シャロヌは大声で笑いだす。
シャロヌ「まあ、そんなわけでこの街で待ってたら、また強い男からの三食昼寝付きの優良依頼があるかと思って戻ってきたわけよ!」
と、エール酒を一気に飲み干し、渾身の力でジョッキをカウンターに叩きつける!
シャロヌ「まぁ、そんな依頼に心当たりのあるヤツは、このシャロヌさんに…」
そこまで言って、シャロヌは酒場の床に豪快に倒れ込む。
主人「おいおい…」
主人が心配そうにシャロヌの元に駆け寄ると…
そんな彼女は幸せそうにイビキをかいていたのであった。
今夜の彼女を見た酒場の一同はこう思った。
一同「ああ、この人の春はまだ遠そうだ…」
一方その頃、アグニアン王国では…
本編のその後:アグニアンに伝わる物語
魔王が討伐されたとの一報がもたらされると共に、アグニアン王国では或る噂が広がりつつあった。
その噂とは、「今回の騒動の発端はアクスにあるのではないか?」というものであった。
元を辿れば、アクス達がアグニアン王国に到着する前、魔王バルガスの復活をアクスが幇助していたという噂が王国内で囁かれていた。
その噂は誰が流したのか?
今となっては確認する術もないが、まさか人を惑わす術に長けた魔王の配下がいたことを民衆は知るよしもなかった。
「その噂が事実であるか、アクスを捕らえて審議する必要がある。」
アグニアンの首脳陣はそう考え、サートス王に上奏する。
サートス王としても、その嫌疑は見捨てておけるものではなく、結果として王直属の親衛隊によるアクスの指名手配とその捕縛を命じた過去を持つ。
世界に平和がもたらされた。だが、平和に安堵した人々は次の矛先を同じ人間に向け始めていく。
彼は魔王から世界を救った英雄に対し、申し訳ない想いを抱え続けていた。
そんな折、彼にとって嬉しい知らせが届く。
自身の一人娘の王女:ミリアと、共に魔王討伐に出征したアグニアンの勇士達が無事に帰還したのだった。
ミリア達が帰還し、長旅の疲れを癒させた後に彼は皆を玉座に呼ぶ。
サートス王「改めてになるが皆の者、此度の働き誠に大儀であった!」
アレイサ・ファミルトン・イグラッド「ハッ、有難き幸せ!」
ミリアを除き、敬服するサートス王の臣下達。
ミリア「お父様、今回の出征によりアグニアンの威信を世に広めることができました。」
父への報告として声を張るミリア、そして隣で敬服するアレイサをそっと見る。
ミリア「改めてになりますが、私の出征を認めていただきありがとうございます。」
サートス王「我が娘ミリアよ、心配はしておったが…やはり我らに流れる気高き戦士の血筋か…」
サートス王「よくぞ、無事に戻ってくれた!」
ミリア「はい、お父様!」
サートス王「それにアレイサっ! 」
アレイサ「ハッ!」
サートス「よくぞ我が娘を守ってくれた!もちろん他の世の従者達もな、礼を申すぞ…」
アレイサ・ファミルトン・イグラッド「勿体なきお言葉にございます。」
サートス王「ところでミリアよ、アレイサの活躍を目の当たりにして惚れ直したのではないか?」
敬服するアレイサを見て笑顔で伝える。
ミリア「もう、お父様ったら!」
サートス王は頬を赤らめる一人娘と、その横で恥ずかしがるのを必死に隠す忠臣を見て大いに笑う。
サートス王「ははは、久しぶりに良い気分になったわ。」
彼の言葉に偽りはなく、魔王復活の知らせを聞いて以来、久しぶりの事であった。
暫くして気分が落ち着いてから、ミリア達に問う。
サートス王「ところで、皆に問う。此度のアクス殿について広がる噂について、聞き及んでおるか?」
サートス王「アレについて皆の率直な意見を聞きたい。直にアクス殿と旅し、その人となりと噂、どちらが真実であるか?」
実のところ、サートス王の想いは既に決まっていた。
だが、実際に彼と共にあった娘や臣下…いや、共に戦火を共にした戦士達の意見を聞いてから判断したかったのだ。
皆の意見はほぼ同じであり、魔王討伐までの彼の行動、人柄、アルセアという少女とのやり取り等、この噂が根も葉もないものである事を訴える。
だた、魔王討伐後に彼が姿をくらませた事については皆言葉を濁すのだった。
その件について、たしかに不明な点が多い…
それは小さいながらも、何やら不穏な事実でもある。
だが、この事に関してアグニアンの大司祭:イグラッドは強く陳述する。
イグラッド「王よ、彼こそが…今この瞬間の平穏を導いた者です。」
イグラッド「彼を非難することは救世の神を批判することと同義。我が神に誓いて意見致します。」
イグラッド「アクス殿を我々が非難することは断じてあってはなりません!」
サートス王「(あの寡黙な老司祭がココまでの意見をするのは初めてだ。)
それを聴き、王の心は決まった。
サートス王「相分かった!では、アレイサよ!」
アレイサ「ハッ!」
サートス王「これより新しい任務を言い渡す、ミリアとの祝言を急げ!」
ミリア「お、お父様!」
アレイサ「…御意に。陛下、ありがとうございます。」
サートス王「うむ、娘を頼むぞ!そして盛大な祝言とするように!」
玉座から立ち上がり、その場にいた臣下皆に命ずる。
サートス王「この祝言は世界に平和がもたらされたことをアグニアンの民に知らしめる為でもある!」
サートス王「並びに、その席にてアクス殿の功績を称え、この馬鹿げた噂を払拭させる為でもある!」
サートス王「皆の者、アグニアンは恩を仇で返すような国ではない!必ずこの任を成功させるよう励め!」
アレイサ・ファミルトン・イグラッド他、臣下一同「御意っ!」
その光景を見ながら、父の想いを心で感じつつ、ミリアはこう想う…
ミリア「(アクス殿、アグニアンは貴方の功績を必ず世に広めてみせます!)」
こうして、アグニアン王国で行われた「かつてない程の盛大な祝言を挙げたプリンセス」と「世界を救った英雄と苦楽を共にした戦士達の物語」が後世に引き継がれていくのであった。
一方その頃、サータニア王国では…
本編のその後:サータニア王国の行方
サータニア王国の貴族が恐れていることがあった。
それはダルク8世の治世が終わった後の後継者問題である。
ダルク8世には世継ぎがいた。
名をセリウスと言い、父に似ず聡明かつ勇敢であり、慈愛に満ちた王子であった。
しかし、彼は魔王バルガス討伐の英雄であり王国の礎を築いた建国者:ダルク1世から代々王家に受け継がれてきた魔王の意識を封じた遺物:白紙委任の蝋燭を宝物庫から盗み出し、魔王復活に関与していたことが露呈。
更には魔王の手先としてサータニアの砦を急襲し、その戦闘でアクス達により討たれたのだった。
貴族達は皆、来るべきであろう混乱に対して恐怖をもっていた。
サータニアを憂う貴族達の秘密会合にて、或る貴族が問う。
「もし、ダルク8世がこの世を去った時、次の王位に誰を据えるか?」
それに対して、変化を恐れる保守的な貴族がこう答えた。
「民衆が望むのは英雄であり、ダルク1世同様に魔王討伐の功労者:アクスとやらを王位につけようとする者も現れてもおかしくはないのではないか?」
貴族達はその事態について議論した。
議論の末、決したのは…
「不安材料を管理下に置き、事が起きればすぐにでも身柄を確保できるようにすべし。」
かくして、彼らは王国の元に身を寄せる凄腕の忍者へ極秘裏にアクスを監視するよう使命を与えるのであった。
バードック「…というのが、この国の事情みたいだぜ。」
まさか、その凄腕の忍者がいとも容易く機密情報を漏らすとは貴族たちも予想はしていなかっただろう。
再びサータニア砦に配属となった魔王討伐隊の弓兵:サルバスとアイオロスも当然のこと予想はしていなかった。
アイオロス「おいおい、そんな機密情報を俺たちに漏らしていいのか?」
呆れた顔で、アイオロスは訊ねる。
バードック「あ~、別にいいんじゃない?ちょっと前まで魔王討伐のお仲間だし、耳より情報のおすそ分けだぜ。」
同じく大口を開けて放心しているサルバスが我に返る。
サルバス「いや、そういうヤバい情報を言いふらしてると、お前さんがえらい目にあうぞ?」
口が軽く、事の重要性も理解していない忍者はいつものお調子者な口調で答える。
バードック「俺、元々ココの兵隊でもないしね。なんてったって俺って忍者なわけ。」
バードック「しかも凄腕だぜ?捕まる前にトットとオサラバできちゃうのよね。」
どや顔とはこの事か?
サルバス「なんでお前程の手練れが今までフリーだったのか、なんとなくわかるな…」
アイオロス「(そういえば、コイツ。確か魔物に捕まって牢獄に入れられてなかったか?)」
心配するだけ無駄だと思い始める二人。
バードック「で、そんな二人にもう一つ耳寄り情報があんのよ。」
バードック「なんと、またあのアクスちゃんがどっかの魔王の首を獲りに行くみたいだぜ!」
アイオロス「魔王?バルガス討伐で終わりじゃなかったのか?」
バードック「いや~、そのへんはよくわからんのだけど。でも旅の準備してるの見ちゃってね~。」
サルバス「アクス殿がまた旅立たれるのか…しかもそれが魔王討伐ともなると…」
サルバスは先の魔王討伐の旅で自身の技量を大いに発揮させたその高揚感を想い出し、武者震いをしだす。
バードック「だよな?そんな感じがしたから、お二人にもリークしたわけよ!」
アイオロス「なるほどな。で、この事を知ってるのは?」
念のため、どこまでの人物がこの話を知っているかを確認する。
バードック「俺ってさ、仕事早いのよ。だってニンジャマスターよ?」
謎に勝ち誇る忍者。
バードック「もちろん、他のメンツにもリーク済み!こんな面白そうな旅、行かなきゃ損だぜ?」
アイオロスはただただ、「こいつが何故忍者なんてものになったのか?」が不思議になって仕方がなかった。
サルバス「わかった。では、俺たちも準備しよう。」
アイオロス「ちょっと待て!」
突然、サルバスを呼び止める。
サルバス「どうした?」
アイオロス「俺は今回の旅には同行しない。」
バードック「おや、ど~したの?臆病風とかいうヤツ?」
ニヤリと笑って挑発する。
アイオロス「なんとでも言え。サルバス、先のセリウス王子の襲撃の時、お前も見ただろう?」
アイオロス「サータニアの兵は軟弱すぎる。バルガスを討ったとしても、その手先の魔物どもは未だこの地域にも出没している。」
アイオロス「今の話を聞いて、ダルク家やサータニア兵だけで俺たちが掴んだ平穏を守り切れるとは思えない。」
バードック「あ~、それは言えてるかもね~」
他人事のようにケタケタ笑うバードック。
アイオロス「そういうわけで、俺はこの砦に残って兵達を鍛え直そうと思う。」
彼の目は真剣だ。
サルバス「…たしかに今回の功績で俺たちも砦の上役になったしな。責任っていうのもあるかもしれんが…」
アイオロス「それもあるが、ココで俺が残って魔物を狩り続けて出世していけば、お前が戻ってきた時に脱走の罪をもみ消すことも出来るかもしれんしな…」
サルバス「おまえ…」
サルバスは同じ戦場を潜り抜けた戦友の肩にそっと手を置く。
アイオロス「この砦の事は任せておけ。」
サルバス「…ああ、よろしく頼む!」
バードック「いいねぇ~、なんだっけ?男の友情ってヤツ?」
どこまでも飄々とした態度をとりながら、バードックは思う。
バードック「(やはり、あの戦いに参加した奴らはちがうねぇ…)」
それぞれの想いが交差する中、アクスは遂に旅立つのであった…
エンディングのその後:決着への旅路
バードックの密告により、サータニア王国に戻ったバルガス討伐隊の面々はその進退を決めることになる。
若くからダルク8世に仕える熟年の騎士:ベルゼスは、バルガス討伐の旅を共にした軍馬:カイゼルに飼葉を与えながら物思いに更けていた。
彼はバルガス討伐後、ダルク家直属の親衛隊隊長に抜擢されている。
ベルゼス「我が家は代々、英雄王:ダルク1世に追随した騎士の家系。当然、私も生涯を王家に捧げるのが運命である。」
カイゼルに聞かせるように独り言をつぶやく。
ベルゼス「もちろん、ダルク8世陛下への忠誠はもちろんの事。しかし、此度のアクス殿の旅に馳せ参じるなら、陛下はなんとおっしゃるだろうか?」
主君に思いを馳せるベルゼス。
ベルゼス「バルガスは討伐された。よって、魔王からサータニアへの襲撃はなくなったと考えられる。」
ベルゼス「しかし、未だ魔物の軍勢は各地に存在し、そういった対処も必要ではあろう…」
「陛下はそもそも将来の王国の平穏を見据え、魔物の根絶を考えておられるのだろうか?」
「もし、そうであれば再びアクス殿の魔王討伐の出征に賛成されるだろうが…」
「ただ、セリウス王子をなくされてから、陛下は前にも増して…」
ベルゼスはサータニア王国の今後について考える。
主君とアクスとのやりとり、サータニアの砦での兵達の動き、そして今回の貴族達の謀略。
今まで見てきた事を踏まえ、サータニア王国の今後について考えると気分が落ち込むベルゼスであった。
主人を案じてか、カイゼルはベルゼスにその顔を擦り付けて励ます。
「これ、やめんか!」
その励ましが効いたのか、ベルゼスはカイゼルの頭を撫でる。
ベルゼス「ところでお前はどうしたい?魔王討伐の英雄:アクス殿とまた旅がしたいか?」
ベルゼス「それとも、このまま平穏に暮らして終わっていきたいか?」
もちろんカイゼルに言葉が通じるわけがない。
ただ、カイゼルの瞳はその言葉を聞き、何故かその瞳を輝かすのであった。
「…やはりお前も英雄に追随する騎士に憧れるか?」
その日、サータニアの歴戦の戦士:ガネーシャは荒れていた。
バードックの密告を受けてから、彼は大いに貴族に対して憤り、そんな王国の将来展望の不甲斐なさにも激怒していた。
だが、それよりも彼にとって不満だったのは、魔王討伐の功績によりサータニア王国の剣術指南役に抜擢されて以降、彼の現場である戦場から外されていたことだ。
もちろん、現在が有事でないから戦場がないのであるが、仮にこれから魔物討伐の下知が飛んだとしても彼に出番が回ってくることはない。
彼の仕事のほとんどは、彼よりも格段に弱い兵士たちの訓練指導と、王国の要職者としての会議の出席、行事の参加、あとは媚びへつらいに来る者のゴマすりの対応…
ガネーシャ「なんだ、これは?」
これならまだ戦士長として魔物を狩っていた頃の方が楽しかったではないか!
魔物を斬り飛ばした後の現場の部下からの賛辞を聞いていた方が気分が良い!
そういった不満の結果、日々の訓練で直接指導という名目で兵士達にその怪力をぶつけていくしか不満を発散する機会がない。
ガネーシャ「本当になんなんだ!」
ガネーシャ「俺は、こんな下らん事をしたいわけではない!」
彼は再び始まろうとする魔王討伐の旅の準備を始める。
サータニア城に併設された神殿の裏、そこにセスカが手塩に育てる薬草園があった。
彼女はバルガス討伐の功績によりサータニアの大司祭に抜擢され、司祭として王国の行事に携わりながら、神への祈りと薬草園の世話を欠かさない生活を送る。
ある日、神殿に誰もいない早朝を見計らい、彼女は薬草園にやってきた。
セスカ「この前の旅でしばらくあなた達の世話をしてやれなかったけど…」
セスカは我が子のように育てた薬草達に声をかけていく。
セスカ「ごめんね、またしばらく旅に出ることにしました…」
セスカは名残惜しそうに薬草へ話しかけながら若い芽を撫でる。
セスカ「後の事は神殿の信用のおける神官に任せていくつもりだから、お前達も安心して成長してくださいね…」
セスカ「あの人達、すぐに無茶な行動するでしょうし、私が薬草を用意しておかないと…」
そっと薬草を摘み取り、次の旅に持っていく薬草鞄に詰めていく。
荒野の砂漠を一人歩く男がいる。
その名をアクスという赤髪の大男だった。
瞳は赤く、苦難の経験を多く積んだ為か年の割にずいぶん老けた顔の傭兵だ。
丘陵を超えた先、彼を待ち構える旅人達がいる。
その内の一人、黒装束の長身の男がアクスに気安く声をかける。
バードック「アクスちゃーん、連れないじゃないの!また魔王の首獲りにいくんだろ?」
そのままアクスの肩に手を駆けようとするが、アクスはそれを振り払う。
アクス「邪魔だ…」
バードックの顔を見ることなく、そう吐き捨てて前に進む。
ベルゼス「本当に連れませんぞ、アクス殿ぉー!貴殿と拙者の中ではないか!」
軍馬を連れた金髪の騎士がアクスの横に並んで歩こうとする。
アクス「だから邪魔だっ!」
アクスの怒声はベルゼスの耳を貫く!
ガネーシャ「ガハハ、そうだろ!ヘッポコ侍は邪魔だから帰った帰った!」
アクスの背後からアクスよりも大声で騎士を笑い飛ばし、黒鎧を着こんだ小太りな戦士が追いかけてくる。
ベルゼス「ガネーシャ殿、貴殿は相変わらず年長者に対して聞捨てならない言葉を…」
どこかで見たようなやり取りをしだす二人に対し、仲裁者があらわれた。
セスカ「まあまあ、皆さん。本当に相変わらずですね。」
苦笑いしながら二人の間に入り、アクスに言葉をかける。
セスカ「アクス殿、長旅には薬草と回復役は必要ですよ?」
サルバス「なら、この先の敵の遠距離攻撃に俺無しでどうやって対処するんだ、アクス殿?」
こんなやり取りが後ろで続き、そしてアクスの後を付いて来る者たちがいる。
アクス「あんたら、なんのつもりかわからんが…」
流石のアクスも振り返り、皆に忠告する。
アクス「今から向かうのは、バルガス討伐なんてガキの使いにもならんようなヤツの首を獲りにいくんだぞ!」
アクスは大声で言い放つ。
次に対峙する相手は、彼であっても勝てるかどうかも知れない相手であった。
一瞬の静寂、砂漠の風が行き過ぎる音が聞こえる。
彼らは一応に顔を見合わす。
それは誰からだっただろうか?
気づけば、アクス以外の面々は声高らかに笑いだす。
一同「アクス殿、何を今更!」
アクスは開いた口がふさがらない…
ただ、次に彼から出たのは大きな笑い声だった…
アクス「ハハハハ!本当にあんたら、たいがいやのお!」
かくして、アクス…いや、アクス一行は再び魔王討伐の旅路につくのであった…
一方その頃、サータニア城では…
エンディングのその後:椅上の名君
サータニア城:謁見の間、その玉座に身なりの乱れた男が座っている。
サータニア王国の現国王:ダルク8世、その姿は誰からの目にも解るほど、彼は日に日に焦燥していくのであった。
そもそもの始まり、それは彼の次に即位するはずだった皇太子:セリウスが不慮の死を遂げた知らせがもたらされてからだった。
更には、魔王バルガスを討伐したサータニアの勇士達の多くが、王である彼に何も告げず王国を出奔してしまったのも追い打ちをかけた。
その後の彼は公務であっても上の空、ただ虚空に視線を向けているのみ。
そんな状況で国政を担っているのがサータニアの貴族達である。
この国を憂う…いや、自身の保身を最大の目的とする貴族達にとっては、ただただ今後の行く末に対する不安が募るばかり。
公務が終われば、彼は覚束ない足取りで自室に入り、誰も寄せ付けずに籠り続けることが多くなっていた。
何かに疲れ切った表情のまま、装飾の施された椅子に座っては物思いに耽る英雄王の末裔。
そのまま椅子に腰かけながら一夜を過ごすこともしばしば…
明らかに彼は憔悴しきっていた。
そんな或る夜、彼は不思議な夢を見る…
彼が見た光景は、まさに先程激しい戦闘が行われたような跡を残すサータニアの砦…
そこに我が子:セリウスが立っている。
セリウス「父上、お久しぶりです。」
セリウスは父に微笑む。
その一目で気品があり聡明であるのが窺える姿は、サータニアの次の国王として期待されるのも容易に想像がつく。
生きていれば、次の世の名君:ダルク9世であった息子だった。
ダルク8世「おお、セリウス…愛しき我が子よ…」
彼はおぼつかない足取りで我が子にすがりつく。
ダルク8世「何故じゃ、セリウス。何故ワシよりも早くに逝ってしまった!」
泣きじゃくる父を抱きしめる息子。
セリウス「父上、申し訳ありません。私が至らなかった故に父上、ひいてはサータニアに仇を成してしまいました。」
沈痛な面持ちでセリウスは語る。
セリウス「ですが、父上に申し上げます。」
セリウスの瞳に涙がこぼれだす。
セリウス「私、セリウスはもうこの世におりません。どうか、私の事を想い遣るお気持ちを王国に…いや、国民にお向けください。」
ダルク8世「そんなものはどうでもよい、ワシにはお主が…」
セリウス「父上っ!」
まるで子供を𠮟りつけるように実父を諭す息子。
セリウス「それでも栄えある英雄王:ダルクの名を継ぐ最後の王ですかっ!」
そこでダルク8世は目覚める…
気づくと自室の椅子で眠りこけていたようだ。
目がぼやけており、指でこする。
その指は彼の涙により濡れていた…
ダルク8世「そうか、ワシもダルクの末裔であったなぁ…」
その翌日、サータニア城:謁見の間の玉座には、身なりを整えて見た目は威厳を取り戻し、普段通りに玉座にふんぞり返る彼が居た。
とは言え、相変わらず政務は貴族に任せ、自身は上の空の状態。
貴族達にとっては「セリウス王子訃報の知らせを受ける前の陛下に戻った」ただそれだけだった。
しかし、あの夢以降の彼は少し違っていた。
彼は座して思索する。
ダルク8世「(ダルクの治世をより良く終わらせ、その後の領内を安定して統治できる方法はないだろうか?)」
それから数年後、彼は貴族や国民たちに理解を求めるよう語り掛け、在位中に政務を引退する。
国の統治については貴族達による合議制を主体とし、国・国民に対する重要政策や法案については国民の投票によりその可否を問う疑似的な民主化体制を敷くよう命ずるのであった。
彼の考えた統治体制はいくつかの問題を孕んではいたが、王政に代わる新しい統治体制に一石を投じた王として後の世で評価される事となる。
また、その思索中に描かれた肖像画「玉座に座する思索の王」は、その困惑した表情で思索に耽る彼が良く表現されており、美術史での名画としても評されている。
一方その頃、ウェイグ洞窟では…
エンディングのその後:老竜と囚われの竜騎士
アクス達が新たに魔王討伐に出立して数か月が経過した。
ウェイグの洞窟の奥、その寝床で休眠していた年老いた黒竜は何かの気配に気づき目を覚ます。
ビスドルス「ンン…?」
ビスドルス「(この気配、ココからそう遠くないエリアに何か…)」
ビスドルス「これは…新たな魔の力を持つ者か?」
その巨体をゆっくりと起こし、目覚めたばかりの意識を研ぎ澄ます。
アキュルス「ビスドルス様、如何なさいましたか?」
主の突然の目覚めに気づき、黒竜の信奉者の一族で老竜を守る竜騎士:アキュルスが彼の元で膝をつく。
老竜は彼を気にかけることもなく、その魔力を帯びた赤い瞳を細め、その気配のする方角へと向く。
更に瞳に魔力を送ると、老竜の脳内には「その気配の持ち主を宿す、腹を膨らませた長い金髪の女性」がイメージされていく。
ビスドルス「ほぅ…」
ビスドルス「(これは…あの時の嬢ちゃんか。そうすると…)」
ビスドルスは微かに笑い声をあげる。
主にとって何が可笑しかったのか皆目見当がつかないながらも、それが主にとって悪い出来事ではない事をアキュルスは察した。
しばらくして、老竜は彼の配下に視線を移し、こう告げる。
ビスドルス「アキュルスよ、お主の妹と共にシストアの村周辺の警戒にあたれ。」
ビスドルス「魔物共は無論のこと、人間の野盗の類であっても…」
ビスドルス「あの嬢ちゃんに害を成す恐れのあるモノは皆、追い返せ…」
アキュルス「かしこまりました。」
彼にとってはアクスに付き従って以来、久しぶりの任務であった。
ビスドルス「では、直ちに向かえ!」
アキュルス「ハッ!」
アキュルスはビスドルスの寝床から離れ、妹の元に向かう。
アキュルスが自身の寝床から出ていくのを確認し、老竜はつぶやく。
ビスドルス「アヤツと嬢ちゃんの子か…これが知れれば魔界も一騒動よのう…」
ビスドルス「(アヤツが帰るまで密かに動く程度であれば、我が主も何も言ってこんじゃろう…)」
ニヤリと笑い、老齢による身体の衰退を少しでも長引かす為、老竜は再び眠りにつくのであった。
アキュルス「(主が守れと言いたいのはアルセア殿の事か?)」
彼はこの任務が如何なるものであるのかを検討する。
バルガス討伐以降、彼は他の討伐隊の勇士とも会ってはおらず、ましてアクスやアルセアの消息などは知る由もない。
ウェイグの洞窟に戻ってから、彼はバルガス旗下の四天王:ファラディーが襲撃した時のまま復旧が進んでいない箇所の修繕作業の監督と、主の警護に当たっており、それ以降は洞窟から出てはいなかった。
そして、それは妹でもある竜騎士:イーリカについても同様である。
洞窟内のいくつかの分岐道を通った先、そこには洞窟外の崖がある。
そこは竜騎士が駆る飛竜の騎乗練習場兼発着場であり、彼ら黒竜の信奉者達の墓地も併設されていた。
突然の太陽の光に目をくらませながら墓地に向かう。
彼の妹は、今日も彼女の恋人が眠る墓前で手を合わせているのであった。
アキュルス「やはり、今日もここにいたか。」
兄の言葉に対して、妹は墓前に視線を向けたまま答える。
イーリカ「兄さん、何かご用でしょうか?」
妹は凛とした声の持ち主だったが、数か月前の魔族襲撃以降、その声はくぐもったままだった。
アキュルス「イーリカ、我らにビスドルス様から新しい任務が下った。」
その言葉で妹はやっと兄に視線を向ける。
イーリカ「わかりました。いつ出立ですか?」
妹の瞳は虚ろである。
少し前、墓の下に埋葬された彼女の恋人の敵討ちが達成されるまではまだ感情が宿っていた。
それは復讐に燃える感情ではあったのだが、その感情すらも今はもう失われている。
アキュルス「妹よ、お前の想いは必ずアイツにも届いている。」
アキュルス「そろそろ、自身を取り戻しても良い頃合いではないか?」
感情が燃え尽きてしまった妹に対し優しく接し続ける兄。
しかし、その想いは未だ彼女には届かない。
アキュルス「この任務はお前にとって…きっと良いになると俺は思う。」
アキュルス「この洞窟から下界に飛び立ち、我らが手にした平穏を肌で感じるのも良い機会ではないか?」
イーリカ「・・・」
兄が言おうとしていることは頭では理解している。
しかし、彼女の心は未だあの襲撃により失った大切な者を抱えたままだった。
かくして、シストアの村の跡地は老竜の指示により、兄妹の竜騎士により庇護される事となる。
この際、イーリカは庇護対象のアルセアと再会する事となり、彼女の優しさに接する機会を得る。
また、それから数か月後…
彼女は新しい生命の誕生の瞬間に立ち会う事となり、徐々にではあるが自身の心を取り戻していく事になる。
その後のこと…
エンディングのその後:彼らの子
各地を旅するザブラ・ムバだが、その旅の途中にアクスを訪ねてシストアの村の跡地へとやってきた。
しかし、既にアクスは自身の業に決着をつける旅に出ており、当然アクスに会うことは出来なかった。
では、彼にとっては無駄足だったかというと…
ムバ「おー、よしよし。」
白い布に覆われた赤子を受け取り、彼の風体からは想像しえない程の慣れた手付きで赤子をあやす。
アルセア「驚きました…ムバさんは赤ちゃんの扱いがお上手なんですね。」
先程まで悲しい表情だった金髪の少女が驚く。
ムバ「まあ、なんじゃ…年の功みたいなもんかのぉ。」
ムバ「(そういえばアヤツも昔、こうやってあやしたもんじゃな…)」
遥か昔の記憶が蘇っては直ぐに消えていくムバであった。
ムバ「ところで、この子はお前さんの?」
アルセア「はい、私と…アクスさんの子です…」
ムバ「なんと…」
ムバはギョロリと目を見開き、金髪の少女:アルセアとその赤子を交互に見比べる。
アルセア「アクスさんに似てませんよね?」
アルセアはクスリと笑ってみせるが、それも長くは続かない。
アルセア「私似の女の子なのですが…」
アルセア「でも、アクスさんの様に…逞しく元気な娘に育てたいと思います…」
アルセアの瞳に涙が浮かぶ。
ムバは急ぎ赤子に視線を移し、とにかく何か…声をかけねばと思案する。
ムバ「…ところで、この子の名は?」
アルセア「実はまだ決めていなくて…」
ムバ「そうか…」
ムバ「(この状況は非常に気まずいのぉ…)」
長らく生き続けさせられているムバであっても、この状況は如何ともしがたく、そして居心地が悪い…
ムバは必死に次の会話の糸口を探そうとする。
それに気づいてかはわからないが、アルセアがムバに尋ねる。
アルセア「あの、ムバさんはアクスさんと古くからのお知り合いと伺っていますが…」
ムバとしてはこの状況打開の渡りに船である。
ムバ「ああ…知り合いと言おうか、何と言うかのぉ…」
アルセア「もし、よろしければ…この子の名付け親になってもらえませんか?」
ムバ「…なんじゃと!?」
寝耳に水、そう来るとは思っておらず同様が隠せないムバ。
ムバ「何故、こんな禍々しい姿のワシにそんな大事な事を頼む?」
純粋に疑問を感じた。自身から見ても、その醜い風体からして人様から敬遠されるのも当然の身体。
そんな者が名付け親なら、大抵の親はその子に災いをもたらしかねないと考えるのが当然と言えるのに。
アルセア「何度かアクスさんにご家族の事を聞いたことがあるのですが、いつもはぐらかされてしまって…」
アルセア「でも、アクスさんから『ムバっていう爺さんが親族みたいなもんだ』とは、聞いていましたから…」
その言葉を聞き、ムバの心に何かが生じた。
アルセア「ですから、この子が生まれ…そしてムバさんにもお会いできて、これは旅立ったアクスからの何かの知らせなのではないかと…」
ムバ「…そうじゃのぉ…」
何故だかわからない。
ムバはアルセアの顔を見ていたはずだった。
しかし、何故か…
遥か昔の想い人であった女性の顔が投影されていく。
それは彼の記憶であり、幻のような…そして切なさが彼の心を支配していく。
ムバ「…では、エリクスという名はどうじゃろう?」
アルセア「エリクス?」
ムバは頷く。
ムバ「うむ、エリクス。ワシとアクスにとても縁のある女性の名前じゃ…」
アルセア「エリクス…」
アルセアはその名を唱えつつ、我が子を見つめる。
少し悲しげな気配も含んではいたが、彼女はムバに笑顔で答える。
アルセア「優しい女性になりそうな名前ですね…」
ムバも出来る限りの笑顔で応える。
ムバ「きっとそうなるじゃろうて。優しく、美しい…自分を犠牲にしてでも他人を守ろうとする強い娘にのぉ…」
アルセア「そうですね。ムバさんはこの子の名付け親で、私たちのお爺さんみたいですね。」
先程の悲しみが消え失せ、アクスと共にあった頃の笑顔が蘇るアルセア。
ムバ「!?」
ムバは急ぎ、アルセアから視線をエリクスと名付けられた赤子に向ける。
ムバ「(アクスが惚れる理由がわかるわい…)」
エリクスはただ、ムバに対して無邪気な笑顔を向けるのであった。
ムバ「(ワシもやっと人としての安らぎを得ることができたような気がするのう)」
ムバは天を仰ぎ、心で祈る。
ムバ「(アクスよ、早く…早く戻るのじゃよ…)」
ムバ「(ワシの様に、決してなるなよ…)」
それから数年が経過し…
エンディングのその後:報われし者
サータニア王国の外れにシストアという名の小さな村があった。
遥か昔、魔界の政争が激化した時代、戦乱に巻き込まれることを嫌い人間界に逃げ延びた者達が密かに興した村だ。
その一族の魔力は魔界に住まう者達から見ると矮小であり、魔界で暮らしていた際は他の一族により虐げられていた。
彼等が人間界に逃げ延びてからは、その知識と一族に伝わる封印の呪法を用いて人間を助け、彼等と人間は共存の道を歩んでいった。
以降は人間との交流と混血により、その血筋と魔力は失われていくのであったが、彼らの力が最も世に活用されたのが後の英雄王:ダルク1世の時代である。
彼らは残された魔力と封印の呪法により、ダルク1世によるバルガス討伐に貢献する。
彼等の活躍により、魔王の意識を白紙委任の蝋燭という遺物に封印することに成功したのだ。
そうして年月が過ぎ、バルガス復活を目指すバルガス四天王:カーリン・ローズの襲撃により村の住民の大多数は殺され、村の長老:リィス・ティスが連れらされる。
この時、村の大人達の抵抗によりなんとか逃げ隠れることが出来たのがアルセアと村の子供達であり、結果、シストアの村はその年端のない者達による極小の集落となっていた。
数年前、既に持ち主のいない小屋に移り住んだ者がいる。
ザブラ・ムバという異形の姿をした悪霊使いだ。
彼は人間界、ましてや集落に定住する等微塵も考えてもいなかった。
そんな事は自分には似合わない。もとい、人間と同じように暮らす事は許されないと考えていた。
だが、彼はその考えを変える機会を得た。
それは彼女達との出会いがあったからなのだが…
最近のムバの一日の過ごし方は至ってシンプルなものだった。
目が覚めれば、日に日に弱る身体を杖で支え、小屋の近くに立つ椋の大木の横に用意した揺り椅子に座って一日を過ごす。
或る時はボンヤリと景色を眺め、それに疲れたら目を閉じて眠りにつく。
ずっとそんな生活が続いていた。
そんなある日、いつものように揺り椅子に腰かけてウトウトしていると…
少女「ムバ爺、またお昼寝してるの?」
呼びかけられて目を覚ますと、目の前には豊かな金髪を風になびかせた赤い瞳の少女が彼を見つめている。
少女「お昼寝ばかりしてないで、今日はこの本を読んでよ!」
彼女の手には子供向けに描かれた英雄物語の本が握られていた。
ムバ「なんじゃ、今日もお前さんの母君に相手にしてもらえずといったところかの?」
ムバは意地悪そうに笑う。
少女「そう、お母さんは洗濯や家事で忙しいって相手してくれないの!」
ムスッとした顔でムバに愚痴をこぼす少女。
少女「でね、ムバお爺ちゃんにご本を読んでもらいなさいって!」
ムバ「ほほう…いつもの感じじゃな。仕方がないのぉ…」
まんざらでもなさそうに笑いながら少女が持つ本を受け取ろうとするが…
ムバ「むぅ…」
少女「どうしたの、ムバ爺?」
ムバはこの村に近づいてくる或る気配を察知する。
ムバ「すまんのう、ワシはもう少し眠りたいのじゃよ。」
少女「え~、そんな~。私と遊んでよ!」
駄々をこねる少女。
ムバ「ではこうしよう。その本はワシが預かるから、お前さんは母君の手伝いをしてくる。で、手伝いが終わったらまた戻ってくるがええ。その時にこの本を読んでやるからのぉ。」
少女「え~、今ご本読んでよ!」
ムバ「ワガママな娘じゃのぉ。約束は守るて…」
そっと少女の頭を撫でるムバ。
少女はムバに撫でられるのが大変気に入っている様であり、笑顔をムバに返す。
少女「もう、しょうがないなぁ…じゃあ、約束だよ!」
ムバ「ああ…約束じゃ、エリクス。」
2人は指切りで約束する。
その後、少女は無邪気に母親の元へ駆けていくのであった。
それを見届けて、ムバは目を閉じてその時を待つ。
しばらくして、何者かの足音がムバに近づき、そして立ち止まる。
大男「よお、ムバさん。こんなとこで昼寝とは風邪ひいちまっても知らねぇぜ?」
ムバ「ぬかせ…それよりも少々戻るのがおそかったのではないかのぉ?」
ゆっくり目を開けると、そこには赤髪の大男が立っている。
大男「すまねぇな、ちっとばっかし手こずっちまってよ…」
ムバ「まあ、相手が相手じゃからのぉ…ところで…」
ムバは一呼吸おいてから尋ねる。
ムバ「…首尾はどうじゃ?」
先程の陽気な口調から一変し、険しい声で男は話す。
大男「ああ…きっちりケリつけてきた…」
ムバ「そうか…」
ムバは再び目を閉じる。或る時から急激に身体の不調と魔力の減退を感じ始めていた。
やはり、ムバの予想した通りの事が起きたようだった。
大男「あんたにとっては悪いことしちまったみてぇだな…」
残念な表情でつぶやく大男。
ムバ「なぁに、気にするな…ワシは生き過ぎておる。むしろここまで生きられて儲けもんじゃよ…」
大男「そうか…すまねぇな…」
大男は頭を下げる。
ムバ「構わんよぉ。それに、ほれ!アレを見てみよ…」
ムバは骨と皮だけの瘦せ衰えた指でその方角を指す。
ムバ「ワシは今から良い光景を見せてもらえるからのぉ…」
ムバが指さす方角に大男は視線を向ける…
そこには二人の人物が立っていた。
一人は先程の少女で、少女は初めて見る大男に怯えてもう一方の女性の後ろに隠れる。
そしてもう一人、その女性は大男にとってかけがえのない人物であった。
大男「アルセア…」
思わず大男の口からその女性の名が洩れる…
その名を呼ばれた女性の瞳は既に涙であふれていた。
アルセア「アクス…さん…」
アルセアはそのままアクスの胸に飛び込んできた。
アクスはアルセアを強く抱きしめる。
アクス「おいおい、アルセア…こいつはアレだな…」
アクス「ちょっと老けたんじゃないか?」
笑いながらふざける。
アルセア「そういうアクスさんだって、老け顔を通り越してお爺さんみたいですよ!」
泣きながら笑うアルセア。
アクス「ハハハっ、アルセア…言うようになったじゃねぇか!」
アルセア「ずっと待っていましたから!そのくらい言っても罰が当たりません!」
抱き合い、笑いあう二人。
しばらく笑った後、アルセアの頭を撫でながら、アクスはつぶやく。
アクス「すまねぇな…ちょっと野暮用が長くかかっちまってよ。待たせちまったなぁ…」
アルセア「はい、本当に…ですが…」
アクスを見つめながらアルセアは泣き笑いながら語る。
アルセア「ご無事で戻られて、私は本当にうれしいです。」
アクス「アルセア…」
アルセア「アクス…」
見つめあう二人。その後、二人は…
ムバはそんなやり取りを見ていられないのか、目を閉じることにした。
隠れる場所がなくなって、ムバを頼って近寄ってくる少女:エリクス。
ムバはエリクスの頭に手を置き、そっと頭を撫でて落ち着ける。
エリクス「ムバ爺、あのオジサンは誰?」
ムバは未だ理解していない少女に静かに教える。
ムバ「アヤツがお前さんの父君じゃよ…」
それを聞いたエリクスだったが、イマイチ理解できていなかったのか不思議そうな顔をムバに向ける。
しばらくして、少しずつ理解できたのか、少女は父親に駆け寄っていくのだった。
少女はアクスに近づき、その顔をよく観察する。
アクスもその少女の存在に気づき、アルセアに問いかける。
アクス「ところで、アルセア。さっきから気になってたが…こんな娘がこの村にいたか?」
アルセア「…アクスはもうっ!」
アルセアは少し怒って見せるが、何に怒っているのかアクスは見当もつかないでいる。
その直ぐに少女はアクスに問いかけた。
エリクス「…お父さん?」
アクス「!?」
アクスは目でアルセアに問いかける。
アルセア「はい…」
アクスが旅立って以降、一番の笑顔でアルセアは答えるのであった。
アクス「おいおい…」
アクスはおずおずとアルセアと我が子を抱きしめて叫ぶ。
アクス「お前達…本当にたいがいやのおっ!」
そして笑いながら泣くのであった。
ムバは一人、揺り椅子に座りながらその光景を眺めていた。
ムバ「(エリクスよ、見ておるか?お前さんの子がやっと…)」
そんなムバの視界がぼやけだす。
彼の瞳は涙があふれていた。
その涙を指で振り払う。
視界が鮮明になったかと思ったが、どうもそうではなかったようだ。
彼の視線の先には『かつて人間であった頃の自分』が、『彼の愛した金髪の女性』、そして『赤髪の元気そうな少年』を抱きしめている光景があった。
ムバはその光景を見ることが出来たからか、満面の笑みを浮かべながら静かに眠っていく。
そんな彼の手には、少女から預かった【魔王討伐に向かう英雄と、その仲間たちの物語】が書かれた本が握られていた。
あとがき:
ファミルトン「ん?」
私室で就寝していたファミルトンは目を覚ます。
何やら違和感を感じ、目覚めたようだ。
周囲を見渡すと、そこは暗闇に閉ざされていた空間が広がる。
その空間に先程まで寝そべっていたベッドが一つ…
ファミルトン「ここは…いったい?」
何が起きているのか思案する彼女だが、到底答えに行きつくことはなさそうだ。
しばらくすると、暗闇の中から突然に光り輝くドアが現れる。
ファミルトン「面妖な!しかし、このままココにいても…」
仕方なしに光り輝くドアに近づいてみる。
ドア自体は輝くこと以外を除けば何の変哲もない扉であった。
意を決した彼女は、どこかの赤髪のオッサンの様に「ナムサン」と心に念じながら扉を開ける。
その扉の向こうには…
吉田「はい、というわけで後書き始めますね!」
ファミ「…貴殿、気は確かですか?」
吉田「酷い言いようで、たいがいやのぉw」
吉田「では改めて、今回の妄想ソードマスターを書いた人です。」
ファミ「…(覚悟を決める)アグニアン王国の王女:ミリア姫様の側近のファミルトンです…」
吉田「さて、今回このコーナーにファミさんをお呼びしたのは…」
吉田「ファミさんを思いの外喋らせることが出来なかったので、この際あとがきもやってしまおうと思いお呼びしました!」
ファミ「貴殿の狂気を目の当たりにして困惑していますが…」
吉田「(無視)さて、私とソードマスターについては過去記事にも載せてますが…」
吉田「この記事は、元々思春期の頃にプレイしてから未だに妄想してしまう『このゲームのその後の物語』をXにチョイチョイ呟いていたところから始まります。」
ファミ「Xは全世界に繋がっていると聞きますが、そんなところに貴殿はトンデモ妄想をぶつけてたのですね…」
吉田「まあ、元々のツイッターってそういうもんだと思ってたのでw」
ファミ「なるほど…」
吉田「そもそも記事化する気もなかったのだけど、或る時にXの仕様変更でプレミア課金してイイネしたら、収益化してる人の広告料に貢献できるとの知らせが舞い込んだ…」
ファミ「ふむ、吉田殿の言う定額推し活できるやんですね。」
吉田「そう!それで、課金して推し活を楽しんでいたら、GrokなるAI機能も使えることが分かったと…」
ファミ「AI?」
吉田「この記事に使わせてもらっている画像がAI生成ですね。」
ファミ「ふむ…」
吉田「試しにミリアとファミさんのイメージを打ち込んでみたら…」
ファミ「ああ、その画像が一番最初のエピソードで表示されてる画像ですね。」
吉田「そうそう。絵が描けない人からするとマジでビビったw」
吉田「で、その画像イメージ見たらもう…触発されたというか、コレなら絵が描けなくても一人で物語書いてソレっぽくできるのではと!?」
ファミ「なにやら賛否分かれる所ではありそうですが…」
吉田「そうなんだろうけどね…でも、この画像が無かったらこの記事を書こうとはそもそも考えてなかったから…」
ファミ「技術は使い様とも言いますし、良い方向で使用できたと解釈されれば良いですね…」
吉田「その辺はまぁ…それぞれの解釈にお任せする事になるかと…」
ファミ「なるほど。どちらにしても、吉田殿自身の妄想物語として、私たちの活躍を記して頂き感謝します。」
吉田「そう言われると助かります。(まあ、コレも妄想なんだが…と、メタ発言)」
吉田「てか、コチラとしてもソードマスターの面々には非常にお世話になっていて…」
吉田「特にミリアやファミさんには、私のプレイするゲームでメチャクチャ活躍頂いております!」
ファミ「と、言うと?」
吉田「例えばですね…」
ファミ「なんと、姫様や私が2D&3D化!?」
吉田「まあ、イメージを私なりに重ねてるだけなんですけどねw」
吉田「そんなわけで、この作品:ソードマスターの続編については開発会社がとっくに解散してるのでもう発売されないのですが…」
吉田「それでも、この作品のキャラクター達は今でも私の中に息づいているみたいですw」
ファミ「登場キャラとしては有難いのやら、恥かしいのやら…ですねw」
吉田「こんなこと書いてる自分が一番恥ずかしいのですが…」
ファミ「各個人の想い入れのあるゲームキャラを別ゲームに投影する…そんな楽しみ方もアリではないかと?」
吉田「まあ、そんなとこですね。」
ファミ「ところで、この記事ですが…」
ファミ「私が言うのも酷ですが、こんな古いゲームの記事を書いたとして読んでもらう機会があるのでしょうか?」
吉田「正直、PCエンジンはSFC→PS1・セガサターン時代までの間にあったハードですし、今やその系統の後継ハードが存在していません。」
吉田「しかもメジャータイトルでもなく、ゲームが発売されて約30年も経過してますし、話題にあがる方がおかしいでしょうね…」
ファミ「登場キャラとしては聞いてて辛いですね…」
吉田「ごめんなさい…でも、もっと酷いこと言いますが、もしもこの作品を初めてプレイするなんて人が居れば…多分こう言います。」
吉田「現行の買い切りゲームを遊びなさい!そして今、頑張っている開発者さん達を応援しなさい!」
ファミ「なんとなく、吉田殿が言いたいことがわかりますね…」
吉田「…とはいえ、この作品は不具合もあるのですが、でも…私にココまで書かせるほどの良い物語を持っている。」
吉田「それが言いたくて書いたのと、それとアノ夢ですね…」
吉田「あの夢に出てきた全国に散らばる私含めて5名のソードマスターファンに贈る…という感じですかねw」
ファミ「その内の1名はXで知り合った方ですね?」
吉田「とりあえず、猛者ということにしておこうかw」
ファミ「そういうことにしておきましょうw」
吉田「あと、もしもライトスタッフの方、特にシナリオライターさんに届いたらいいなぁ…とは思っています。」
ファミ「ほうほう…」
吉田「そして、『アンタの妄想も、たいがいやのぉ』を頂きたいところですねw」
ファミ「wwww」
ファミ「ちなみに今回の結末に至るまで、吉田殿の考えるアクス殿の旅はどんな物語になったと思われますか?」
吉田「そうですねぇ…多分こんな感じに旅は進んでいったのではないかと思っています。」
吉田「こんな感じで…たぶん魔界には行かず、人間界の別の王国とかにルシフェルみたいに顕現した魔界の四大諸侯の一人+アノ方と戦っていったのではないかなと…」
ファミ「これはまた…随分な妄想をw」
吉田「てかね、この作品はあのエンディングで終わった余韻も良いのだけども、ソードマスター2に展開しても面白い世界観なんですよ!」
ファミ「そうですね…もし、今作のシナリオライターさんにお会い出来たらどうするつもりだったのか聴いてみたい所ですね!」
ファミ「ちなみに…この結末までの物語を書く予定は…?」
吉田「あるわけがない!w この先のお話はそれこそゲームで語られるべきだし、そこはゲーム開発者やプロの物書きさん達の出番かと」
ファミ「さて、登場キャラとして一番気になる所ですが…」
ファミ「今作:ソードマスターで一番好きなキャラは?」
吉田「それはファミさんと同じ方だと思います!」
ファミ「ああ、なるほど。だから美味しいところを姫様が搔っ攫っていく事が多かったんですねw」
吉田「まあ、贔屓するのは仕方がないw」
ファミ「姫様に代わり感謝します!では、せっかくなので姫様について語り合いましょうか!」
吉田「ですなぁw」
こうして、二人?のミリア愛についての語らいは朝まで続くのであった…
追伸:
バルガス四天王「ところで私たちの出番は?」
吉田「あんたらアクスさん達に負けて、しばらく人間界出てこれないでしょ?」
吉田「(そういや、この世界の魔族は殺しても長い年月経ったら復活するんだったなぁ…)」
吉田「そういう意味で、白紙委任の蠟燭は重要アイテムだったのかもね♪」
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